オムニチャネル時代において、企業は購買チャネルをクリエイティブな視点でデザインしていかなくてはならない、という内容にふれてきました。今回は、クリエイティブな視点で購買体験をデザインしているブランドの代表的な事例をみていきたいと思います。
事例1:リアル店舗を軸とする企業のデジタル購買体験化:DIFFERENCE <コナカ>
リアル店舗を軸とする企業がオムニチャネルを導入し、購買体験にデジタルツールを使うことによって、購買体験の質の向上と効率化を実現している例。
事例2:Eコマースを軸とする企業のリアル体験化:Warby Parker
Eコマースを軸としている企業が、デジタルでは提供できない商品のリアル体験をどの様に提供し、購買を完結させているかという例。
事例1:DIFFERENCE(コナカ)
DIFFERENCE(ディファレンス)は、紳士服販売のコナカが展開するオーダースーツ事業です。2018年時点で全国に約50店舗展開しています。DIFFERENCEは、良い立地への出店力と接客力の高いスタッフ等、リアル店舗を軸とする企業の強みを活かしながら、事業構造の実体としてはEコマースを軸とする販売への移行を視野にいれた事業となっています。ここからはDIFFERENCEの購買体験フローを見ていきたいと思います。
<online>
初めてDIFFERENCEで商品を購入する顧客は、予約しておくと待ち時間無くスムーズに対応してもらえます。DIFFERENCEはオーダースーツ事業なので、まずは店舗で体の寸法を測ることを前提としていますが、一度顧客の身体寸法を把握することで、2回目以降のオーダースーツの販売を全てEコマースでも完結できます。
ウェブサイトから来店したい店舗を選定すると、予約可能日時が一覧できるカレンダーが表示されるので、日時を選択します。あとは名前と連絡先を入力して予約を確定します。
<offline>
予約した日時に店舗に来店します。店舗はオーダーを楽しむための空間としてクオリティとデザイン性の高い空間になっていますが、あくまでもこの店舗での機能的な役割は顧客の身体寸法を入手することです。顧客はここで身体寸法をデータとしてDIFFERENCEに渡す事で、次回以降わざわざ来店しなくても自分の体にジャストフィットしたスーツをEコマースで購入することが出来るようになります。
一方で、高いデザイン性の店舗空間や接客品質は、スーツをオーダーすることへの情緒的なブランド体験価値を高め、初めて来店する顧客を一回の店舗体験でブランドのファンへと変えることができます。体の採寸を行なったあとは、店舗スタッフと一緒にスーツのディテールを詰めていきます。生地や襟の形状、ボタンの色、裏地の色等を指定します。
DIFFERENCEではそういった接客を全てタブレット端末で行い、オーダー内容が決まった後はそのデータが即座に国内の仕立て工場に送信され、約二週間で納品されます。商品の受け取りは店舗でも自宅配送でも選択できます。
<online(2着目)>
この様に、DIFFERENCEの初回購買体験は、<online to offline>になります。初回のスーツオーダー後にDIFFERENCE会員サイトでは、自分がオーダーしたスーツのオーダー内容や、担当したスタッフが誰か、オーダーしたスーツが今どこでどういう状況になっているのかが確認できます。しかしDIFFERENCEの狙いは、2回目以降にスーツを購入する顧客が、ストレス無く全てオンラインでオーダーを完結できることです。その為の機能をEコマースに持たせています。
例えば、オーダースーツは1着オーダーしてもそれを実際に使用する中で、もう少し袖を短くすれば良かった等の欲求が出てくるものです。そういった細かい寸法の変更に対応するために、Eコマース上では、初回にオーダーした寸法をベースに、アバターを用いて細かい寸法をビジュアルで確認しながらオーダーすることができます。また、Eコマース内でオススメのスタイリングを提案される、オーダーするプロセスにおいて納期が確認できる等も、サイト内で購買を完結するスムーズな体験に繋がります。
一方でオーダースーツ業態では、生地を確認したい、都度寸法を図ってオーダーしたい等<offline購買>を希望する顧客もいます。その様な顧客に質の高い体験を提供できる実店舗の出店、運営ノウハウを持っていることも、リアル店舗を軸とする企業がEコマースを軸とする事業に進出する強みといえます。
事例2:Warby Parker
Warby Parker(ワービーパーカー)は、2010年にニューヨークで創業したローコストでファッショナブルなアイウェアを提供するブランドです。Warby Parkerは、商品を体験できる店舗の他に、顧客が試着してみたいアイウェアを5点まで5日間無料で貸し出しをする「Home Try-On」というサービスを展開しています。
<online>
顧客はまず、Warby ParkerのEコマースから、試着したいアイウェアを最大5点選ぶことができます。
<real experience on online>
選ばれた5点は自宅に届けられ、5日間使用することができます。
<online>
顧客はアイテムを5日間使用し、気に入った商品があればEコマースから購入できます。使用した5アイテムの商品は全てWarby Parkerに送り返し、Eコマースで購入した新品の商品を受け取ることができます。
また、どのアイウェアが自分に似合っているか迷った時は、アイウェアを装着した自分の写真に「#warbyhometryon」のハッシュタグをつけてSNSに投稿すると、Warby Parkerがアドバイスをしてくれます。2018年8月現在、インスタグラムに投稿された画像の数は、2万3千件を超えています。また、サイトではライブチャットで相談に乗ってくれるサービスもあります。
<offline>
それでも迷う場合は、2018年8月時点で80店舗弱展開されているリアル店舗を利用することもできます。この様にWarby Parkerは、Eコマースを軸にオムニチャネル化し、SNSにより顧客を巻き込んだ共感型マーケティングを実現しています。同社は2015年、アップルを抑えて「Most Innovative Companies 2015」第1位を獲得しています。
Eコマースを軸とする企業が、購買プロセスにおいて商品をリアルに体験するプロセスを設けることは、リアル店舗を軸とする企業に対する対抗策であり、今後も加速していくことは予測できます。ただしそのリアル体験の提供方法は店舗の開設である必要はなく、自宅での試着やショールームでも対応できます。どの様なチャネルを利用して、どの様な購買体験をデザインし、それによりどの様なブランドイメージを作っていくのかという、チャネルデザイン=ブランドデザインの時代へと移行しています。
自ずと売り上げに貢献するためのHPは、時代にフィットしたものをクリエイトしなければならないということです。
No Comments